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今日の昼飯は、久々にサカナ系を食おうと思い
いきつけの店・鳥Qのカキフライ定食に決めた。
このカキフライ定食の値段はなんと500円。
先日他の客が頼んでいたのを目の当たりにしたのだが、
内容もしょぼくない。
カキフライ6~7個にレタス、サラダスパ(のようなもの)の付け合せ+味噌汁+ごはんがついている。
さらにごはん大盛りはタダ。
しかも食後のドリンク(俺は常にアイスティー)までついてたったの500円だ。
松屋のワンコインセットをはるかに凌駕するこの内容。
赤坂見附イチのコストパフォーマンスを誇る定食であるといえよう。
ランチ王in赤坂見附だ。
いや、赤坂見附界隈だけでなく、23区内に出回っているあまたのランチの中でも
コストパフォーマンス部門ベスト3に入るのではないか。
しかしあのカキフライが本当にこんな安価で食べられるのか。
実際に食ってみるまで、実は半分疑っていた。
カキとかいって、実はシジミフライなんじゃねーの?
だって500円だもの。
しかし実際に最初の一個を口に運び、その味と残りの断面を観察してみて、俺の疑惑は跡形も無く消し飛んだ。
何度も味わった、カキ独特のまろやかなうまみの中にほんの少しだけ感じる内臓のにがみ。
そして断面の内臓の黒とそれを包む肉のクリームホワイト。
うむ。間違いない。本物だ。
疑ってごめんなさい。鳥Qさん。
俺は心の中で静かにわびをいれた。
しかしそんなすばらしいカキフライ定食だったが、ただひとつだけ問題があった。
ソースがないのであった。
いや、あるにはある。
お皿のカキフライの横にはタルタルソースと思しき物体があった。
サラダスパはあらかじめ味がついてるし、レタスにもマヨネーズがかかっている。
とすると、やはりこのタルタルはカキフライのためのものなのか。
しかし、俺の実家ではカキフライはいわゆるブルドッグとかの(ウチはあくまでおたふくソースだったが)茶色のソース&辛しをつけて食すのが古くからの慣わしだった。
でもエビフライだってタルタルで食う場合があるよなと思い、
試しにカキフライにタルタルをつけて食ってみた。
う~ん。微妙
確かにまずくはないが、何かが足りない。
そこで俺は店員にソースを頼もうと思った。
しかし店はお昼時を迎えててんやわんやの大騒ぎ状態。
なんと今日は、ちょっとだけど並んでしまった。
それほどの客の入りだったのだ。
しかし今日はどうしても500円カキフライ定食にトライしてみたかった俺は、ここできびすを返すわけにもいかず、並んでしまった。
てなわけで、店内はあちこちから怒号が飛び交うほどの大盛況なのだった。
怒号の主たちは、頼んで30分以上経つのにまだメシが来ない人や食べ終わってから20分以上経つのに食後のドリンクが来ない人が大半を占めるように思われた。
そんな重要な問題を抱える人たちに比べれば俺のソースほしいという要求はあまりにも小さい。
小さすぎる。
しかも、そんな状況だからホールスタッフもゆっくり歩いている人などだれひとりいなく、みんな早足以上で駆け回っている。
どうしたものかと悩んでいる間にもみるみるうちにカキフライの数は減っていく。
食ってる途中で「ま、いっか。タルタルでも」と一瞬思ったがしかしカキフライが減っていくにしたがって
おまえ、本当にこのままでいいのか?
という心の声は強まるばかりだ。
そしてついにとうとう最後の3個にまできた時点で俺は決心した。
やはりソースを頼もうと。
メシが来ない客のことなど知ったことか!
忙しいからといってソースの運搬を拒否できる権利は店側にはない!
俺のソースへの欲求はここまで高まっていた。
店内の様子を観察し、タイミングを見計らい、店の人が近くを通りがかったとき、意を決して俺は叫んだ。
「すいません!」
おもいっきり
無視された。。。
しかも顔見知りでわりと仲がいい店長に。
体温が2、3度上昇したような気がした。
このときの俺が被った心理的ダメージは、たとえていうならば八丈島ダイビング旅行から帰ってきたその日に彼女に
「出てって」
といわれたあの日に匹敵する。
いや、それは言いすぎか。
しかし俺は動揺を隠せなかった。
店の人にシカトされたのももちろん苦痛だったが(それは残りの3個をもタルタルで食わねばならない可能性の増大を意味するからだ)、それよりも他の客に対するバツの悪さの方が問題だった。
読者のみなさんも、どこかの飲み屋やレストランで、自分の近くにいる客が店員を呼ぼうとしてシカトされるシーンに遭遇したことがあるだろう。
そんなとき、彼らは「あれ?」とか
「シカト?」とか
「聞こえなかったのかな?」とか、
ダレに言うともなくつぶやく。
ツレがいたときはまだいい。
ひとりのときはサイアクだ。
それは、それ以上の沈黙に耐え切れず、あまりのバツの悪さにより、ついもらしてしまう周囲へのエクスキューズなのだ。
そんなつぶやきを聞くたびに、俺は目を細めてしまう。
同志よ、おまえの気持ちはよく分かる。
しかし俺はそいつに深く同情するとともに、今後そいつがどのような行動に出るか、心の中で悪魔の笑みを浮かべながら待ってしまうのだ。
シカトされても動じることなく、
すいませーん
すいませーん
すいませーん
と店員が気づくまで何度も呼び続けるヤツもいれば、一発目の呼びかけがシカトされたらちょっと間をおき、仕切りを直して、シカトされた店員とは別の店員に声をかけるやつもいる。
前者のような行動に出る場合、1回目の「すいません」と2回目の「すいません」の間に少しの猶予も許されない。
時間が空けば空くほど気まずさは増大され、2回目の声をかけるタイミングはどんどん遥か彼方に遠ざかってしまうからだ。
俺は後者だった。
しかし2回目の方がプレッシャーは高まる。
なにせ、一度失敗しているのだ。
もう失敗は許されない。
失敗が重なれば重なるほど、気まずさと他の客の笑いものにされる可能性は高まってしまうからだ。
だから2回目は周囲の客になるべく気づかれないように可能な限り小さな声で、俺が助けを必要としているということを、店員に確実に知らしめねばならない。
今度こそ一発で仕留めてやろうという必殺の気合を胸に秘め店員が俺のすぐそばを通りかかったときに声をかけた。
すいません。ソースください
「はい。少々お待ちください」
よし。やった。
これで他の客の好奇な視線からも、タルタルですべてのカキフライを食わねばならんという恐怖からも解放された。
依頼してしばらくしてソースが来た。カキフライの黄金色の衣にこげ茶色のソースがかかる。
うむ。やはりこれがカキフライの正しい姿である。
まずはその姿にひとり得心し、次に口に運んでみる。
やはりタルタルにはないパンチの利いた味が、カキ自体の味をいっそう引き立たせる。
ような気がする。
とにかくカキフライとソースのマッチングは最強だった。
やはりソースを頼んでよかった。
幸福感に包まれながら残りのカキフライを食った。
そして最後の一個を口に運んだ時、新たな発見があった。
そのカキフライの裏にはタルタルが付着しており、口の中でソースと溶け合い、なんともいえない絶妙な味のハーモニーを奏でたのだ。
これはこれでうまいかも。
タルタルもいうほど捨てたもんじゃないな。
しかし新発見に喜んでいる場合ではなかった。
ことの一部始終を元同僚のヨシダイクミ(33歳・実名)に見られていたのだ。
しかも俺のすぐ後ろの席で。
不覚。
■今回の教訓:壁に耳ありクロードチアリ(さむっ…つーかふる)
(編集:)